生きてる事が功名か


Kbal Spean Kbal Spean


カンボジア  クレーン山脈  CANBODIA   Mt.Kuleaen



クバール・スピアン

    道中は、山岳道路であるが舗装路でありトゥクトゥクでも気楽に行ける道程だ。 しかし、 入口ゲートからは川沿いの土道を登る行程になる。ここからが結構辛い。 大人の足でも30分はかかる、文字通りの山道だ。川は、山頂からシェムリアップ川に繋がる 清流で、渓谷を形成し段差では滝も有している。 クバール・スピアンとは「川の源流」という意味だ。


入口 動物園もある Kbal Spean Kbal Spean



    約1500mの登山道、一部で道幅は狭く 細く成り、樹木の生い茂るケモノ道のような様相を呈する場所も存在する。 綱が引いてあるので、必ず それに従い進むこと。本道を反れて森林部に突入すると、撤去しきれなかった地雷が埋って る場合もある。ゲート先の 橋を渡るとスタート。


案内図 Kbal Spean



    ここは建物よりも磨崖仏として有名だ。その彫刻が見られる場所とは、 切立った岩崖であったり、 川の中であったり、対岸の屏風岩であったりする。従って、『季節的な見学制約』を もろに受ける史跡になる。私の行った10月は雨季に属し、増水した雨水で 川中に連なるように彫刻された壁面画が 水没して見えない事が多かった。また、水質として 泥で濁りきり、目視を不可能にさせていた箇所もあった。


Kbal Spean Kbal Spean 休憩所 Kbal Spean Kbal Spean Kbal Spean 石橋付近 石橋



「ふぅ・・・到着!」


   頂上付近まで到達すると、川に掛かる石橋を確認。 近くで滝の瀑布音が轟いていた。すると、ノコノコと男が近付いて来る。 上下を規定の制服を来た、身なりのしっかり した者だ。初老くらいの、その男は親しげな笑みを浮かべ、片言の英語で話掛けてくる。



『Where you come from?』

「じゃっ、じゃぱん」



   地方遺跡には、対外国観光客の現地ガイドが居ることがある。 オフィシャルな職員らしく、決まった制服を着ている。茶色の シャツに長ズボンという格好だ。 大抵は英語を喋り、時に、日本語も話す者もいる。 必要なければ断ることも出来るが、当史跡のクバール・スピアンに関しては、素直に案内してもらった 方がいいだろう。ガイド本片手に我流で色々探ってみても、木々は深く 彫刻も小さいので、見つからない箇所も多い。 ガイドを雇った際の、 終了時にはチップとして2〜3$の支払いが必要。


千本のリンガ Kbal Spean


クバール・スピアン 1/3 Kbal Spean




   男は手招きをして、川底を指した。


『サウザントのリンガだよ』

「ほう」


    リンガは男性器の象徴だ。つまり、川底の岩盤を平に均し、千個の突起を丁寧に1つ1つ 彫刻したのだ。大変な苦労だっただろう。 山の開祖は、ウダヤーディティヤヴァルマン二世という人で、1059年のことであるという。 ここの場所は、水が澄んだ乾季の渡航なら、さらに綺麗な大量のリンガが 映るだろう。


シヴァ神と馬の進行図 シヴァ神と馬の進行図 ワニ



ガイドは流れの速い川の対岸を指し、さらに誇らしげに言うのだ。


『向こうに見えるのが、シヴァ神と馬の進行図だ。
上流にはワニのリリーフが描いてある場所もある』



ブラフマー神 石橋 石橋 ヴィシュヌ神




『こっちはブラフマー神だ。あまりお目にかかれないレアな神さんだ。
今の季節は水かさが増して見難いが、石橋からはヴィシュヌ神が見える』



カエル ワニ Kbal Spean 翁




男の説明は続く。滝のたもと、円形石に形成された凹凸縁を指でなぞる。


『カエルじゃ』

「あっ、これはオレでも判るっす」

『フォッフォッフォ』



さらに身を反転させるジェスチャーで、後の巨岩の斜面を刮目するように促す。



『振り返るんじゃ!後の岩にはワニと、翁もおるぞい』

「スゲー、知らないで帰るところだったわ!」

『フォッフォッフォ』



滝 職員


クバール・スピアン 2/3 Kbal Spean




   滝の脇に木橋が整備されて おり、降りて真近まで行く事が可能だ。連れて行ってもらった先で、二人でしゃがんで滝壺 を観察した。水量はやはり多いのだろう。轟音と共に 水しぶきが霧状に蒸散し、周囲の温度を下げているのがわかる。


    涼しいなぁ〜、と胡坐をかいて悦に入って ると、ガイドがムクリと立ち上がった。どうやら、最後の見学場所に連れて行くらしい。


『仕上げじゃ、ついて来るんじゃ』


    そう言って、川岸を離れ反対の山中に引導を始めた。切立つ岩の間を抜け、ゴツゴツとした 岩に足をかけ斜面を登った。再び、汗が噴出するのがわかった。


「爺さん、どこまで連れていくんだ?」

『ここじゃ』



    立ち止まった爺は、茂みの一角にある一枚岩を指して言った。


『ヨニ台じゃ、後にあるリリーフも見逃してはならぬぞ』



ヨニ台 Kbal Spean


クバール・スピアン3/3 Kbal Spean




「ありがとうございます!勉強になりました」

『これで儂の講釈は終了じゃ、気付けて帰るんじゃぞ』


    こころばかりのチップを渡し、その場を後にした。下山はくだり坂なので、 その行程は楽だ。スルスルと降りて、無事、麓の駐車場まで到着。すると、馴染みの車体の脇で、 ドライバーが腕組みをしている光景が目に入ってきた。 どうやら、運転手は昼寝はしなかったようだ。



洞窟内の小さな祀壇 山道の風景 山道の木



『どうだ、面白かったか?』


    うん、と頷き後部座席に飛び込む。ドライバーは キーを捻り トゥクトゥクのエンジンを掛けた。車体は砂利の 剥き出しになった駐車場を、ゆっくりと出発しようとしていた。私は突然に 男の背中を叩き、 ガイド本記載の気になっていた ページを開いて見せた。クバール・スピアン周辺施設として備考付記する程度の半頁にも満たない 紹介ページ。禍々しい大量の武器写真と、 一人の男の顔写真が載っている。地雷博物館だ。



「ついでにここも行ってくんない?」

『・・・お前、案外人遣い荒いな』


O地雷博物館
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